耳鼻咽喉科領域の悪性腫瘍について
耳鼻咽喉科領域には、聴覚・平衡覚・嗅覚・味覚などの感覚器など、重要な機能を持った器官がたくさんあります。また、脳、眼などに近いという関係から、耳鼻咽喉科領域に発生した腫瘍は、進行すると永久的な機能障害を引き起こす可能性があります。
重要な機能を持った器官が多いということは、そこに腫瘍が発生した場合、比較的早くから自覚症状が出やすいともいえます。内臓器官とは異なり、直接または鏡・ファイバースコープ・顕微鏡などを使って、鼻やのどの奥まで腫瘍の有無を直に確かめることができます。このため、異常を感じたらすぐに専門医に診てもらい、早期発見が可能な場合も多いです。
しかし残念なことに、現実には、症状が何ヵ月も続いているのにそれを放置して、いざ来院した時にはかなり進行しているという場合が多いです。悪性腫瘍は、早期発見ができれば、処置後の機能障害も最小限で済むため、それにこしたことはありません。
ひと口に悪性腫瘍といっても、いろいろな種類があります。悪性度が高く、どんどん進行していくものから、何年もかかって徐々に大きくなるものまであります。
また、現在はがんとはいえないが、将来がんに移行しやすいという腫瘍もあります。診察して、疑わしい場合には、その部位を試験的に少しつまんで採り、顕微鏡で組織を調べれば、どんな種類なのかを診断できます。
代表的な耳鼻咽喉科領域における悪性腫瘍
喉頭癌
全身の悪性腫瘍の中で2%、耳鼻咽喉科領域の悪性腫瘍の中でも約25%を占めるのが喉頭癌です。喫煙者に多くみられ、男女比は10対1、ヘビースモーカーほど発生率は高いという報告があります。
初期症状は、のどの異物感や声がかれるという程度で痛みはほとんどありません。症状がしばらく続くときは、一度診察を受けられるとよいでしょう。
大部分の喉頭癌は放射線治療が良く効き、早期発見できれば、機能障害をほとんど残さずに完治します。進行した場合は手術が必要ですが、発声機能を残す手術法も考えられています。また喉頭をすべて取った場合でも、訓練により再び声が出るようにすることが可能です。
咽頭癌
咽頭は、上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれています。そのいずれからも癌は発生します。咽頭癌は症状が出にくいため発見が遅れがちです。のどの異物感、出血などがある場合には注意して下さい。咽頭癌は頸部に転移しやすいのが特徴ですが、初期なら化学療法や放射線治療が良く効きます。扁桃の腫れ、頸部のリンパ節の腫れなどがある場合にはぜひご相談ください。
また、咽頭には多くのリンパ組織が存在し扁桃と呼ばます。これらのリンパ組織からは悪性リンパ腫という悪性腫瘍が発生することもあります。
鼻・副鼻腔癌
喉頭癌と同様、耳鼻咽喉科領域の癌の約25%を占めます。副鼻腔の中の上顎洞から発生するものは上顎洞癌と呼ばれ、骨に囲まれている空洞のため発見が遅れがちです。初期症状としては、片方だけの鼻づまりや鼻出血などが認められます。
癌の発育方向によっては、物が二重に見える、頬が腫れる、上あごが腫れてくることがあげられます。ちくのう症と間違いやすいため、レントゲン写真で疑わしい場合には、CT、その他精密検査を受ける必要があります。
主な治療法は、上顎洞を栄養している動脈から抗癌剤を注入する方法、放射線治療、手術の三者併用療法があります。
舌癌
舌の側面に発生することが多く、早期から痛みがみられます。舌にしこりや潰瘍があって治りにくい場合、専門医に相談する必要があります。
最も発見しやすい癌の1つですが、数ヶ月も放置してから受診する患者さんが多く見受けられます。初期なら手術や放射線で治ります。舌は半分程度切り取ってもそれほど機能に問題は残りません。
頸部リンパ節腫脹
両側、もしくは片側の頸部のリンパ節が腫れる場合、頸から上のどこかに強い炎症か腫瘍がある可能性が考えられます。これは頭部、顔面のリンパ液の流れが、すべて頸部に集まるためです。無痛性で動きの悪い頸部のリンパ節の腫れが徐々に大きくなるようなら、早めに専門医にご相談ください。
頸部のリンパ節から発生する癌は稀で、頸部よりも上のどこかに原発巣が存在する可能性が高いです。
その他耳鼻咽喉科領域の悪性腫瘍
唾液腺、甲状腺、中耳などからも悪性腫瘍が発生します。
悪性腫瘍には早期検査・早期治療がとても大事です。
何か異常に気付いたら、早めに耳鼻咽喉科の専門医にご相談ください。